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◆◇◆

「久しぶりだな、王冠」
「お久しゅうございます」
「うわ……。なに、この綺麗な王冠。気持ち悪いんだが」
「貴女をロードと設定したので、そのままの口調というわけには」
 融合もできないガラクタにロードは必要なのかどうか。
「……クビ」
「……なんだと? 人が下手に出れば、バカのくせに調子に乗って」
「いいから解説。おまえは何がしたかったのか。何を知っていたのか。さっさと話せ」
 なんかもう投げやりだった。名探偵によって衝撃のトリックが明かされ、追い詰められた犯人が聞きもしないのにペラペラと動機やら何やらを喋り始めた時くらい気が抜けていた。
 ちなみにこのポンコツ、どれだけ尋問されても一切口を割らなかったそうだ。ロードの許可なく口を開くことはできない云々とのこと。そういうわけで、面倒に付き合わされている今この時。
 おれの命令を受け、王冠は渋々といった口調でしゃべり始めた。
「まあいいけど。私がコロナを作った研究者に出会ったのは、今から五年くらい前かな。簡単に言えば、協力関係。私はロードが欲しかったし、彼は私の持つ古代ベルカの知識が欲しかった。お互いの利害が一致したから一緒にいたんだ。コロナが生まれたのは、だから、私が頼んだからだ。聖王のクローンが欲しい、と。そしてアイツはそれに応えた。それが、世に言うJS事件の少し前だね。おまえの誕生を今か今かと待ちわびていた私が、聖王のゆりかごを起動させた聖王クローンの話を聞いたときの絶望といったら……」
「そんなことどうでもいいわ」
「わかってるよ。うるさいな、もう。それで私は、ゆりかごを起動させた、聖王により近い存在をロードにしたくなった。だから計画を変更して、管理局との戦闘中に事故でコロナを殺そうとした。そうすれば、回収された遺体からコロナが遺伝子的にヴィヴィオと同一の存在だとわかり、その所持品だったデバイスは、ヴィヴィオの手元に流れる可能性が大きかったから。まあ、見てのとおり失敗したけど」
 全然悪びれていない。最悪のデバイスだった。
 腹が立ったので少し反撃しておく。
「やあい、ざま見ろ」
「やかましい。そうそう、思いだした。コロナ。おまえの人格や記憶の一部は、その研究者が基本になってるみたい。なんでもそいつ、現実(★、、)からアニメ(★、、、)の世界に来たんだとか言ってたけど」
「…………。……なんだと?」
「だから、おまえが現実からアニメのキャラクターに憑依したと思っているのは、実際に現実から憑依した人間の記憶が元になっているから、ってことだね」
「アニメだと思い込むように記憶が捏造されているからじゃないのか?」
「それもある。その研究者の記憶に加えて、JS事件の終結までがアニメとして付け加えられているだろ?」
 つまり、研究者から引き継いだ記憶は本当にアニメを見たという記憶。
 JS事件をアニメで見たと思い込んでいるのは、そう思うように記憶が捏造されているから。こちらの記憶は、レイジングハートやバルディッシュから抽出したデータを使って偽造されたもの。
 だとすれば"元の世界"は本当に存在することになる。
「うわ、辻褄が合うな。合ってしまうなあ。いや、でも、現実からの憑依なんて、それこそ現実的じゃないだろ」
 酷い吐き気がする。
 鼓動が耳元で鳴る。
「最初は信じてたくせに。それに正統ベルカの融合騎一つまともに修復できない管理局(★ミッドチルダ)が……、扱いのわからない物を片っ端からロストロギア指定している管理局が……、どこまで世界を知っている? この次元世界をアニメとして観測する高次の世界から、まだ見ぬロストロギア、魔法、あるいは科学技術によって、人格だけを召喚し、人体に憑依させることが不可能だなんて、証明されてる?」
「いや……、しかし、そんな飛び抜けた技術なんて」
「おまえの頭をめちゃくちゃいじり回した技術だって、数十年前までは理解不能の超技術だったろうね。アルハザード時代の技術は今でもそのほとんどが神の御業としか思えない威力を発揮するものだよ」
 視野が狭くなる。
 呼吸が苦しい。
 膝から力が抜け、壁に手をついた。
 ようやく自分がこの世界で生まれ、生きていく存在なのだと覚悟した途端に、これだ。
 まったく。これだから空気を読まずに厳しいことばかりを言うポンコツデバイスは……。



 で。
 精神的なショックで倒れるという驚異的な打たれ弱さを発揮してから数分後、どうにか復活したおれに、王冠は今度こそ申し訳なさそうに謝った。
「ごめん。議論のために反対意見を言っただけなんだけど。コロナがそこまで弱ってるとは思わなかった。正直言うと、おまえを作った研究者自身、自分が憑依してると思い込んでるだけなんじゃないか、と私も思ってる」
「洒落にならないことしやがって」
 とは言うものの、自分でも驚いているくらいなのだ。
 いろいろと真実が判明した時にはほとんど取り乱すことなく受け入れることができたつもりだったのだが、今回だけはダメだった。緊張が氷みたいに融けたところへの不意打ちじみた一撃だったからなのかもしれない。ようやく足もとが固まったと思った直後にそれが崩れたら、誰だって驚くに決まっている。
「たぶんおまえを作った研究者は、インテグラと同じ生産ラインで作られ、同じ記憶を持つ人間なんじゃないかな。インテグラのやつ、コロナを第二世代とか呼んでただろ? あれはきっと、自分は現実から憑依したんだと思い込んだ人間が、さらに同じような人間を作ってしまったことを指してるんだろうね。で、生まれたのがコロナ」
「インテグラが趣味と称して殺し回っているのは、自分と同じ生産ラインから生まれ、自分と同じ記憶を持つ人間だった、と。そういえばあいつ、JS事件についてはアニメとして見た記憶がなかったみたいだしな。まあ、生まれた時期を考えれば、当然といえば当然だ。その差のおかげで、第二世代は際どいけれどもギリギリ殺しの範囲外だったわけか」
 最後の最後でおれをハズレと認定したのは、そういうことなのだろう。
 もしかするとインテグラは管理局で捜査官をやっているときに、何かの拍子で気付いてしまったのかもしれない。自分は憑依したと思い込んでいるだけなのだ、とか、他にも似たような人間がいるのだ、とか、そのようなことに。
 大元の人格が同一である以上、インテグラも本来はおれみたいに打たれ弱いはずだし、そこからガタガタと崩れて、果てはうだつの上がらない殺人鬼をやっている、などというのもあり得ない話ではない。
「王冠。おれを作った研究者について、他に知っていることは?」
「特にないよ。いや、動機についてはちらほらこぼしてたことがあったかな。たしか"この世界の人間に憑依したおれが、どれほどの確率の下で今まで生きながらえたのか。確率の樹形図上の自分の現在位置を知りたいのだ"とかなんとか。どう考えても自分に酔ってる。コロナは私の注文で作られた存在だから、研究の対象になっていたかは怪しいけど、記憶をいじられている以上、他の個体と同じ処置はされてるんだろうね」
「……最低だな。最低研究者だ」
「まあ、ね。コロナみたいな幼児体型を襲うようなヤツだし」
「はあ? ってあの時のペドフィリアか!?」
「うん。おまえが生まれた日に頭カチ割ったアイツ」
 くそ。なんてことだ。青い鳥は昨日食べたヤキトリだったのか。存在そのものをさっぱり忘れていた。
 もしかすると、これで第二世代の存在や数を把握している人間はいなくなってしまったのではなかろうか。
「あんまり思い悩まない方がいいよ。今おまえが何かしたところでどうにもならない。自分が無力だって学んだはずだろ?」
 王冠が励ますように言う。
 その通りだった。
「……そうだな。そうだった。うん。おれは無力、無力はおれだ。だからさしあたっては、執務官でも目指すか。あとおれに無力を思い知らせたおまえが無力とか言うな」
「もう裏切らないってば。それで、どうして執務官なのか訊いてもいい?」
「捜査官より執務官の方が頭良さそうだろ? なんか権限もありそうだし、強そう。給料もいい、のか?」
「執務官だから頭良くて強いんじゃなくて、頭良くて強いから執務官なんじゃない?」
「じゃあ強くなればいい」
「頭良くはならないの?」
「おまえがカバーしろ。で、執務官になったらとりあえずインテグラのバカを撃墜して、ブタ箱にブチ込んでやる。今回の件でようやくわかった。あいつは危なすぎる」
「相変わらずズレてるというか、気づくの遅いというか」
「その後は、おれと同じ第二世代や、おれを生みだしたペドフィリアやインテグラと同じ第一世代を片っ端から保護していくかな。その過程で第一世代を生み出したヤツを叩ければ、もっといい」
「なんだ。結構いいプランじゃん。もちろん途中でインテグラみたいに殺人鬼に転向するんだろ? ミッド人狩りはきっと楽しい。いや、それとも聖王教会率いてミッドと一戦やらかしてみる?」
 物騒なヤツめ。そもそも聖王って人は戦乱を収めるために戦い、ベルカの統一を図ったはずだろうに。
「やっぱおまえクビだな」
「嘘もとい軽い戯言にございまする。聖王陛下におかれましては―――」
「だからそれ止めろって。あ、けれども聖王教会っていうのはいいアイディアかもしれないな。おまえ、古いベルカの記憶とかいろいろ持っているんだろ? きっとその内依頼が来るだろうし、代償に新しい体を作るための費用でも出してもらうのはどうだ?」
 王冠は融合騎であると同時にレリックのような役割も果たすデバイスであったらしい。その機能が生きていれば、いまのおれでもいきなりオーバーSランクの騎士になれるという"ぼくのかんがえたさいきょうのでばいす"を地で行く存在であったようだが、現在、その機能の不全が起きるどころか融合すら出来ない有様だ。そして、そもそもそんなことが出来るとは知らなかったのだが、管制人格の実体具現化もできなくなっている。つまり喋るだけ。口を開けば出てくるのはあまりよろしくない言葉ばかりで、何の役にも立たない状態である。そのうちファービーみたいに電池が切れてただの置物になってしまわないか、少しだけ心配だ。
 その心配を解消するための手段としてシャーリーが提案したのが、王冠に新たな体をくれてやるという心優しいものだった。
 管理局にはリインフォースUという融合騎が存在する。そして融合騎製作のためのノウハウも、特殊な条件下でのみ有効であるとはいえ、存在している。現代の技術で元通りに修復できないなら、様々な機能をオミットし、本来の機能より大きくレベルが落ちるのを受け入れて、一から作ってしまえばいい、という強引かつ無駄の多いやり方だったが、まあ、悪くはない。いや、それどころか、良い。むしろ素晴らしい。
 どうしてそう思うかといえば、リインフォースUが一個の管理局員として認められているということを知っているからだった。
 地位と役目がある。それはすなわち給料が貰えるということ。
「これは勝ち組の香りしかしないな。おれのために頑張れ王冠。しっかりと働いて稼いでこい王冠。応援だけはしているぞ王冠。おれはやっぱり執務官なんて目指さず引きこもる」
「やっぱりおまえ、現実なめてるだろ? 子供じゃないんだから働け、大人」
「あーあー聞こえない聞こえない。やっぱり小学校からやり直すんだ。テストで100点量産して虚しい優越感に浸りつつ少年探偵団でも結成して毎週殺人事件に巻き込まれる楽しい人生を送るんだ」
「はいはい言ってろ。シャーリー、もういいよ。私は話すべきことは話したし、このままだとコロナがますますバカになるだけだ」
 王冠が締めくくり、そこでようやくおれは気付いた。というか思い出した。
「あ。そうだった。この会話、聞かれていたんだよな」
「なにを今さら」
「まずいなあ……。いや、ほら、どうもおまえとは波長が合うらしくて話をしていると地が出るんだが、今まで彼女らの前で"おれ"なんて一人称使わなかったというか、男だと言っていないというか」
 精神年齢が肉体年齢を大きく上回る女性であると当然のように思われていたので、訂正するタイミングを逃し続けて今に至ったのだ。
「お風呂に一緒に入ったというか?」
 王冠が楽しそうに尋ねる。
「そうそう。おっぱいおっぱい。眼鏡外したシャーリーは美人」
 ほとんど病院住まいだったが、スカリエッティと面会した日だけは院外で一泊したのだ。
 そんなことを話している内に、話題に上っていた人たちが部屋に入ってきた。
 誤魔化すのがとても大変だった、とだけ言っておく。
 性別に関しての問題が表に出るのはもっと先の話だろう。きっとその頃には今とは比べ物にならないほど洗練された擬態能力が身についているに違いない。それでも困るようなら、困っているその時のおれが解決すればいい。
 もちろんこれから色々なことを決めていく必要があるだろうが、面倒を未来の自分に丸投げして、こうしてひとまずの安寧を得た。


◆◇◆

 ケガの治療と各種検査を終え、とうとうコロナが退院する日がやってきた。それを一番待ち望んでいたのは、本人を差し置いてフェイトであったのかもしれない。
 事件に大きく関与する人物であるということで、最近までは少女の存在を、ヴィヴィオやその義母にさえ教えてあげることができなかった。ぎりぎり話せても、オフレコだと前置きした上で管理局幹部たる義兄と義母までだったが、もちろんフェイトは話さなかった。
 フェイトが親しい知人らと最後に話をしたのは、インテグラ・イイオトコと変則的なカーチェイスをした日の夜のこと。その事件は、次元世界の中心ともいえるミッドチルダ首都での大きな事件であったため、広い範囲で報道がなされれていた。その中に、暴走する自動車を追うフェイトの映像も含まれており、上空からの視点で追跡劇を見た知り合いたちが心配し、連絡をくれたのだ。そのときのフェイトはコロナを捜索中であったのだが、それを口にできなかったのが酷くもどかしかったのをよく覚えている。
 そして今日。
 どのような偶然によるものなのか、コロナが退院するこの日はフェイトの親友高町なのはの、そしてフェイト自身の休日でもあった。二人の休暇が重なるだけで貴重だというのに、そこに都合よく退院日が重なるとなると、これはもう何者かの意図を感じてしまう。義兄の仕業だった。
 そのことを数日前から知っていたフェイトは、さりげなく、さりげなく、と自身に念じながら、雑談の合間に提案したのだ。
「ねえ、コロナ。ハラオウンの家に行く前に、なのは―――高町なのはさんとヴィヴィオに会ってみない?」
 レイジングハートやバルディッシュの記録を元にした記憶を持っているコロナは、高町親子のことを当然ながら知っている。
 ベッドの上に座っている少女は少し考えて、
「みない、い……、インモラル」
「類人猿」王冠型のデバイスが即答した。
「いきなり終わらせるなよ……」
「下手クソな逃げ方するからだ類人猿が。後でいくらでも付き合ってやるから、今は彼女の話を聞いとけ」
「誰が辞書機能を搭載した機械相手にしりとりなんて挑むか。おまえ、そんなにヴィヴィオに会いたいのか?」
「嫉妬してる?」からかうような口調。
「また生き埋めにされたらたまらないからなあ」
 呟いて、コロナはフェイトの方へと体の正面をむけた。表情がガラリと変わる。真面目なものに。
 フェイトがそれを見て感じたものは、機動六課に入ってからの子供たち―――エリオとキャロが急にしっかりしだしたときに感じたものによく似ていた。しかし話し合うことで全てが解決したあの時とは違い、現在のコロナの扱いは、社会的にも対人関係上でも、非常に難しい。背伸びせざるを得なかった子供ではなく、背を無理やり引き延ばされた状態で生まれてきた存在なのだから。……みたいなことをコロナ本人と話し合った結果、なのはと出会った頃のあなたのがよほど大人だった、と切り返されてしまった。過去を知られているというのはこれほどまでにやり難いものだったのか。フェイトは内心で唸ったものだった。クロノの友人、アコース査察官は教育係のシスター・シャッハに頭が上がらないと聞くが、たぶんそれに近い。
「自分はその二人と会うことに何の問題もありません」コロナが言った。
 習いたての言語を辞書片手に訳したような固い言葉に、フェイトは苦笑する。困ったなあ、歳は離れていても姉妹になるというのに。
 そう。フェイトの義母こそが、コロナを引き取ることになった人物なのである。
 当初はフェイトが保護者として引き取るつもりでいた。しかし、そこに待ったをかけたのがコロナ本人。曰く、エリオとキャロに悪い、と。そのようなことを妬んだり悪く思ったりする二人ではないと言ったが、バルディッシュの記憶を持つコロナはすなわちその二人がどれほどフェイトを拠り所としているかを知る者でもあり、こればかりは拒んで譲らなかった。二人から親を奪うぐらいならどこかの施設に放り込まれた方がマシだ、とまで言った。
 そこにデウス・エクス・マキナの如く現れたのが、リンディ・ハラオウンだ。
 彼女は上品な手つきで皿の上のケーキを切り分けるかのように、鮮やかな手際で問題をかっさらい、至極あっさりと解決してしまった。しょっぱい顔でああだこうだと言い返すコロナを圧倒的なまでの話術で押し切って、こうしてフェイトとクロノに義妹ができた。哀れな長兄がそれを知ったのは、全てが決まってからだった。もちろん彼の妻もグルだった。
「えっとね、その、もう少し砕けた言葉を使ってもいいんだよ……?」
 どうして自分の方が恐る恐るなのか疑問に思いつつも話しかける。
 返ってきたのは、
「綺麗な人には綺麗な言葉を、まともな人にはまともな言葉を、バカには死を。ポリシーなので」
「同じこと鏡見ながら言ってみなよ?」
 すかさず合いの手を入れたのはデバイス。
「この顔ならどうせすぐに見ることになるんだ」コロナは肩をすくめ、フェイトへと視線を向ける。「ハラオウンの家に向かう前となると、退院してからすぐですか?」
「うん。そうなるかな。お昼はもうお店を押さえてあるから」
 退院は昼前の予定だ。
「二人とも、楽しみにしてるって」
「珍妙な生き物を見られるとなれば、誰だって楽しみにするでしょう。かく言う自分も、動物園の爬虫類コーナーや水族館の深海魚コーナーや植物園の食虫植物コーナーが大好きで」
「あ、コロナは照れてるだけだから気にしないで」王冠がフォロー。
「やかましい」コロナが顔をしかめる。
 ふとフェイトの中で蘇る記憶があった。もう十年も昔のことになる、フェイトが出会ったばかりの頃の、クロノとエイミィとのやりとりだ。
 昔から他者の立場でものを考えることのできる優しさを持っていたクロノではあるが、当時の彼はあまりそれを表に出そうとしなかった。そのため一見すると人当たりが強い人間であったのだが、内心をエイミィに言い当てられることが多々あり、その度にある程度パターン化された反応を示していた。いまでは夫婦であるそんな二人とよく似た関係が、フェイトの目の前にいる主従の間にも存在するらしい。しかもこちらはほんの数週間で築き上げられたものだという。
 ならば、きっと自分たちもすぐに仲良くなれるだろう。コロナと王冠がそうであるように、あるいは自分とクロノがそうであったように。
「そっか。それじゃあ今度、行ってみようか。動物園と水族館と植物園」
「いや、そういうのはヴィヴィオやエリオ、キャロとでもどうぞ」
「これも照れてるだけだよね?」今度はフェイトが言う。
「ああ、もう……、だから……」
 頭を抱えた少女を前に、にやにや笑いの止まらないフェイトであった。




◆エピローグはいつだって次の物語のプロローグ◆

 瞬く間に四年くらい経った。
 ハラオウンの家には元提督やら元執務官補佐やらがおり、また現役の提督と執務官、戦闘に長けた使い魔までもが揃っていたので、勉強するにはもってこいの環境であるといえた。その分重たい姓であるともいえるのだが、メリットの方がはるかに大きいのは間違いない。しかも彼ら、努力を非常に尊ぶ人たちであるし、教えるときに甘さを見せる意味がないことを知っている人たちでもあるので、おれはあっという間によく訓練されたマゾになってしまったのだった。かつてインテグラに鍛えられた数日で芽生え始めていたマゾの資質が、長い期間のスパルタな環境により完全に花開いたのだといえよう。
 余談だが、得意技はセルフ・バインド。無駄に派手な虹色のバインドで自分を雁字搦めにするという、何の役にも立たない宴会芸である。
「……なんか腹立つくらい見え見えのエサがぶら下がっているんですけど」
 モニタの向こうへと呼びかける。
 返ってきたのは、現在の直属の上司ティアナ・ランスター執務官の声。
『美味しそう?』
「少なくとも見た目は美味しそうでないと、エサとして機能しないかと。どうします?」
『そうね……』
 綺麗な輪郭を描く顎に手を当て考える仕草は、とても様になっていて格好いい。
 ティアナとおれとのつながりは、ひとえにインテグラの逮捕を目的としている点にある。
 四年前。おれがフェイトに保護されたあの日、ティアナはインテグラ相手に一矢報いるも撃墜され、人質として利用されている。ティアナでなくとも同じ結果になっていただろうし、ティアナの攻撃でインテグラの魔力が大きく削られていたからこそ被害が抑えられたという事実があるものの、もちろんそんな言葉は彼女にとって慰めになどなりはしない。
 そのような過去があり、おれたちはインテグラに仕返しするために手を取り合う仲なのだ。
 そして二人の標的であるインテグラであるが、ここ数年、ますます派手な活動をするようになっていた。タガが外れたのか、後先を考える知能がついになくなったのか、一年に二度ほどのペースで行われてきた仕事としての殺人は、時間が経つごとに増加している。"殺人鬼イイオトコ"といえば今や次元世界中で最も有名な犯罪者の一人であり、非公式ながらファンクラブまで存在する有様だった。
 ヤツが出没する各世界の警察機構ではもはや手がつけられないので、管理局本局にて、単独犯を追うには異例といえるほどの大規模な武闘派追跡チームが編成されたくらいの活躍ぶりである。まったくもって忌々しい。
『ところでコロナ。あんた、次の試験は受けるつもり?』
「……唐突になんですか?」
 話題が大きく変わり、言葉に詰まる。試験とはもちろん執務官試験を指している。
『もう三回落ちてるんだから、そろそろ受からないと精神的にきついわよ? まだ若いとはいえ、失敗しても次があるっていう状況に慣れすぎるのも問題だし』
「いや、その……、義兄が一度、義姉が二度落ちている以上、義妹としては空気を読んで三度くらい落ちておかないといけないかなあ、なんて」
『苦労してるのね。……で、本当のところは?』
「実技をパスすると筆記で落ちて、筆記をパスすると実技で落ちます。あれ、本当にどうにかなりませんかね? 具体的にはコネとかで」
『まあ、JS事件後の綱紀粛正でさらに難易度が上がってるから仕方ないといえば仕方ないんだけど』
 そのハードモードに挑み合格した人間がなにを言うのか。
 管理局内における最難関試験の一つである執務官試験であるが、これに臨む人たちの大部分がマゾっぽい顔をしているのが気にかかる。合格するのはそれ以外の人がほとんどであるという事実も見逃せない。
 つまりは脱マゾし、厳しい業務を嫌いながらも確実にこなすことのできる人間にならなければ受からないということなのかもしれなかった。
『何にせよ、早々に受かって悪いことなんてないんだから、次できっちり合格しなさい』
 ティアナの表情が、知り合いのおねいさんから頼れる執務官のものに切り替わる。
『あんたが次の試験に集中するためにも、ここで確実に逮捕するわよ? そうすれば、執務官になってからの仕事にもつながるし、ちょうどいいわ』
「―――了解。では、エサに食いついてみるということで」
『武装隊への応援要請はそっちでお願い。こっちはこっちの準備を済ませておくから』
「はい」
 モニタが閉じられる。
 いい上司である。幼い外見に騙されてくれないのが特にいい。
「コロナはすぐに怠けるからね。人の目がないと」
 王冠が茶々を入れる。
 融合騎たるこいつのメンテの都合もあり、将来に渡っておれたちは管理局に縛られる運命なのだが、待遇は悪くないのでそれなりに満足している。やはり二人分の給料がもらえるというのは大きい。これによって軌道拘置所の某博士に約束通り大量のエロ本を差し入れたり(受け取り拒否される!)、カレルとリエラを餌付けしようとしてエイミィに叱られたり(晩ご飯抜かれる!)、ヴィヴィオに数々のロリコン撃退用携帯兵器を送りつけたり(送り返される!)できるのだ。
 そしてそれら以上に、おれが他の第二世代と出会ったとき、王冠は融合事故を起こしてでもおれを止めてくれる、という確信を持てるのがありがたい。
 きっとインテグラにはそういう相手がいなかったのだろう。だからこうして止まらず、止まれず、止めてくれと懇願するように自己の存在をアピールし続けている。とうの昔に壊れた自動車が惰性で走り続けているようなものだ。
「妄想乙」
「やかましいわ。ほら、さっさと応援要請するぞ。武装隊に。捕まえたら第一世代探知機として酷使する予定だから、できれば殺さないように頼んでおかないと」
「あれは何やっても死なないよ。ゴキブリみたいに生き汚いんだから。むしろ手足の一本や二本ぐらい落としといた方が安全な気もするけど?」
 相変わらず過激なことを言うが、今回に限っていえばあまり反対できなかった。
 しかし、手足を残すか否かを決めるのはおれではない。
「まあ、インテグラも元機動六課の隊長陣に手足をもがれるなら本望だろうけど」
『―――大丈夫だよ。無傷で、とは言わないけど、絶対に逮捕(★、、)してみせるから』
 タイミングよく開いたウインドウ。映し出されるフェイト・T・ハラオウン執務官と愉快な愉快な仲間たち。何が愉快なのかといえば、彼女らに袋叩きにされる犯人の姿を想像するだけで愉快なのだ。
 突撃要員はニアSかオーバーSランクしかおらず、後方支援も歴戦のAAランク以上しかいないという本気で世界の一つ二つを狙える恐ろしい陣営が、今回のインテグラの敵だった。こればかりはどんな猛者であっても逃げ切れまい。味方であっても頼もしすぎて脚が震えるというのだから、敵対することになった人間の心境やいかに。まったくもってコネクションの勝利である。
『武装隊への応援要請はもう済んだ?』
 画面の外にいるのであろうティアナに問われ、
「あ、やば。今からします」
『はぁ……。さっさとしてきなさい。こっちの準備はもう整うわよ?』
 これ見よがしに呆れのため息をつかれてしまった。そして、そんな上官然としたティアナをからかうような、それでいて祝福するようなわいわいがやがやが音だけで伝わってくる。
 おれの口元が緩んでいるのは、それを聞いているからではない。数時間後にはタコ殴りにされて手錠をはめられるはずのインテグラにどのような言葉を投げかけようかと考えているからだった。
 インテグラが捕まれば、するべきことがまた増える。でも、それはいつだって同じなのだということに、最近になってようやく気がついた。一つの課題を乗り越えれば、また新しい課題が目の前に現れる。今日までがそうだったし、今日からもそうなのだろう。そしてそれはアニメの世界だろうが現実だろうが変わらない。
 なので、次の物語に切り替わる直前の今この時を以て、一つの区切りにしておこうと思う。
「おれたちの戦いはこれからだ」
「うん? コロナ、いまなにか言った?」
「いや、何も」

fin.



モドル